「入院や手術のやむを得ない出費で、大きな借金ができてしまった」
「生活が苦しく、医療費によってできた借金を返済できそうにない…」
病気やケガによって高額な医療費を請求され、支払いができずに借金してしまうことがあります。
しかし、返済できないからといって借金をそのまま放置するのはよくありません。
高額な医療費を払えない方には、公的な救済措置もあります。まずは利用できる制度がないか、検討してみましょう。
それでも借金を返済できない場合は、法律の専門家に相談することで解決できる場合もあります。
この記事では、医療費が払えず借金をしてしまった場合の注意点と、その解決方法を紹介します。
医療費支払いのために、カードローンや消費者金融で借金した場合の救済措置
手術や入院による医療費は高額になる場合も多く、健康保険などの「公的医療保険」を適用しても払いきれないことがあるかもしれません。
そんなとき、一時的に消費者金融やクレジットカードのキャッシングを利用して払おうと考える方もいるでしょう。
しかし高額な医療費を支払った場合には、いろいろな救済措置があります。
医療費支払いのために借金をしてしまった場合も、これらの救済措置を利用することで返済できる場合があります。
医療費の払い戻しがある「高額療養費制度」
高額療養費制度は公的医療保険における制度の一つで、医療機関でかかった医療費の一部を、後から払い戻しするものです。
医療内容が健康保険の適用範囲内のものであれば、一定の自己負担限度額以上の医療費を支払った場合「高額医療費の還付」の対象となります。
所得や年収に応じて支払う医療費の上限が定められているため、詳細は公的医療保険の組合や厚生労働省のWebサイトなどでご確認ください。
厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへ
〈ポイント〉
高額療養費制度を利用すれば、医療費の一部が後から払い戻される
払い戻しの8割を無利子で借りられる「高額医療費貸付制度」
高額療養費制度の支給申請をすれば、約3ヶ月後に高額療養費の払い戻しを受けられます。
しかし、治療に必要な費用はすぐ医療機関に支払わなければなりません。
その間の医療費を用意できない場合は「高額医療費貸付制度」の利用を検討しましょう。
高額医療費貸付制度とは、高額医療費として戻る予定の金額の約8割(国民健康保険の場合は9割)を無利子で借りられる制度です。
高額療養費の払い戻しを受けるまでの期間をつなぐことから「融資制度」や「つなぎ資金」とも呼ばれます。
「高額療養費制度で払い戻されるお金を早めに受け取れる仕組み」というとイメージしやすいでしょう。
高額医療費貸付制度は、全国健康保険協会が取り扱っています。
「高額医療費貸付金貸付申込書」に必要事項を記入し、以下の書類を全国健康保険協会各支部に提出することで制度を受けられます。
〈申込時に必要な書類〉
- 医療機関が発行した、保険点数(保険診療対象総点数)がわかる医療費請求書
- 被保険者証もしくは受給資格者票(原本を提示・郵送する場合は写しでも可)
- 高額医療費貸付金借用書
- 高額療養費支給申請書
仕事を休むと支給される「傷病手当金制度」
病気休業中に、被保険者とその家族の生活費を保障するための仕組みが「傷病手当金制度」です。
手術や入院によって仕事を休み、十分な収入が期待できない場合に一定額の支給を受けられます。
傷病手当金制度は、病気やケガによって仕事を3日間連続で休んだ後、4日目以降の仕事に就けない日に対して支給されます。
傷病手当金が支給される期間は支給開始日から最長1年6ヶ月で、期間は延長できません。途中で一時的に仕事に復帰した場合は、手当は支給されません。
傷病手当金制度は、全国健康保険協会が取り扱っており「健康保険傷病手当金支給申請書」および以下の書類を提出することで制度を受けられます。
〈申込時に必要な書類〉
- 療養担当者の意見書
- 事業主の証明
- 年金証書のコピー*
- 年金額改定通知書のコピー*
- 休業補償給付支給決定通知書のコピー*
*初回申請時や変更が生じた場合に都度提出
上記のほかに、申請理由が外傷の場合は「負傷原因届」、交通事故など第三者行為による場合は「第三者の行為による傷病届」などをセットで提出する必要があります。
ちなみに国民健康保険には、傷病手当金制度はありません。
税金の一部が戻ってくる「医療費控除」
医療費の負担を少しでも減らしたいなら「医療費控除」を利用しましょう。
医療費控除とは、1年間で支払った医療費の合計が一定額を超えた場合、その医療費を基に計算した金額分の所得控除を受けられる制度のことです。
医療費とは、治療するために必要な交通費や部屋代、薬代なども対象となります。
確定申告時に医療費控除を申請すれば、1年間に支払った医療費に応じて課税される所得が少なくなり、最終的に払った税金の一部が戻ってきます。
会社勤めの方は「還付金」という形で戻ってきます。手続きについてわからないことがある場合は、税務署の窓口で相談してみましょう。
国税庁 医療費を支払ったとき(医療費控除)
〈ポイント〉
医療費控除の申請をすれば、税金の一部が後から戻ってくる
国民健康保険料を滞納していると、ペナルティが課せられる
病気のために働けず、国民健康保険料を滞納している場合は要注意です。
滞納があると、前述した救済措置が受けられない場合があるのです。
また保険料を滞納すると、延滞金が発生し、最終的には財産の差押えになる場合もあります。
以下では、国民健康保険料の滞納で発生するペナルティについて説明します。
国民健康保険料を滞納すると「延滞金」が加算される
国民健康保険料を滞納すると、居住地の市区町村から電話や手紙による督促が行われます。
訪問による督促が行われる場合もあるようです。
さらに、ペナルティとして延滞金を請求されます。
延滞金は、下記の計算式で求められます。
〈延滞金の計算式〉
滞納金額×延滞金利率(年率)×延滞日数÷365日
延滞金利率は市区町村によって異なります。
詳細を知りたい方は、居住地の市役所に問い合わせてください。
3~6ヶ月間しか使えない「短期保険証」に替わる
国民健康保険料を滞りなく支払っている場合は、通常の保険証を支給されています。
しかし保険料の支払いを一定の期間滞納すると、短期被保険者扱いとなって「短期被保険者証」に変更されてしまいます。
一般的な保険証の有効期限は1年間ですが、短期保険者証は更新期間が短く3~6ヶ月間しか利用できません。
期限が近づくたびに、役所で短期被保険者証の更新手続きを行う必要があります。
医療費が「全額自己負担」になる
短期被保険者証に切り替わった後も滞納を続けていると、次は「被保険者資格証明書」が交付されます。
これは、国民健康保険の被保険者であることを証明するだけのもので、保険証の効力はありません。医療費は一時的に、全額(10割)自己負担となります。
保険給付停止となり、医療費が全額自己負担になる
それでも滞納を続けた場合、最終的に保険証は「使用不可」となります。
滞納期間が長ければ保険給付が停止され、医療費の支払いが完全に全額自己負担となってしまいます。
滞納の督促に応じない場合は「差押え」もある
保険料の滞納期間が長期化すると「差押え予告の通知書」が届きます。差押えの対象は、以下の通りです。
〈「差押え」の対象一覧〉
- 給与
- 預貯金
- 保険(解約返戻金のあるもの)、個人年金
- 動産
- 自動車
保険料の滞納は、消費者金融などと異なり「不動産の差押え」はありませんが、給与や預貯金の差押えはあります。
借金の返済ができない場合は、債務整理も検討する
高額医療費の還付を受けても借金の支払いに不十分な場合や、健康保険組合の制度を受けられない場合は、解決方法の一つとして「債務整理」の利用も検討しましょう。
債務整理には「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類があり、それぞれメリットが異なります。以下では、債務整理のそれぞれの特徴について説明します。
月々の返済を減らす「任意整理」
任意整理とは、債権者(お金を貸した側)との交渉によって、将来的に発生する利息をカットし、月々の返済負担の軽減を図ることです。
弁護士や司法書士などの専門家に手続きを依頼した場合は、毎月の支払い額について貸金業者と直接交渉してもらい和解を目指します。
任意整理では裁判所を介すことなく貸金業者と交渉するため、個人再生や自己破産よりも時間や手間、費用がかかりません。
借金を1/5~1/10程度に減額する「個人再生」
個人再生とは、住宅などの財産を残したまま借金を5分の1~10分の1程度まで減額し、残った分を原則3~5年間の分割で返済していく手続きのことです。
減額後の借金をすべて返済できれば、残った借金については返済義務が免除されます。
例えば借金が300万円ある場合、借金100万円になります。(借金額が100万円以上500万円以下の最低弁済額は100万円)
すべての借金をゼロにする「自己破産」
自己破産は、裁判所に申立てを行い、支払い不能であることが認められれば、すべての借金の返済義務を免れる手続きです。
任意整理や個人再生は最終的に借金の返済が必要になるため、一定の収入がなければ手続きできませんが、自己破産は無収入の方や生活保護を受けている方でも条件に合致していれば手続き可能です。
借金がゼロになるため、借金減額効果は債務整理の最も大きいですが、一部の職業・資格に制限を受けたり、高額な財産を手放す必要があるなど、デメリットもあります。
医療費のための借金返済に困ったら、法律の専門家に相談することも検討を
入院費や手術費など、高額な医療費の支払いのためにした借金がある場合は、紹介した救済措置を検討してください。
それでも返済できない場合は、債務整理による解決も検討してください。
債務整理手続きは法的な専門知識が求められる場面も多く「任意整理」では、貸金業者との交渉も難航するケースがあります。
そのため債務整理を行なう際は、弁護士や司法書士などの法律の専門家に相談することも選択肢の一つです。
無料相談などの機会を使って、弁護士・司法書士事務所に相談してみてはいかがでしょうか。
医療費の支払い以外にも借金の悩みがあるなら、解決策について相談することも可能です。